長崎市から福井市に転居してほぼ1年が経った。
同じ地方の県庁所在地であっても、両都市の性格は対極的に違うということが、生活してみてよくわかる。
特に公共交通に対する住民の意識が全く違う。とある統計で、地方中堅都市の中で公共交通機関への依存度が最も高い都市が長崎市で、最も低いのが福井市だというデータを見たことがある。福井に来て地元の人と話をすると、車に対する感覚が違いすぎてびっくりする。車社会ってこうなんだ、と、予想以上の状況に驚かされた。
長崎市や佐世保市で公共交通機関への依存度が高いのは地形的な要因が大きいのだが、実際には住民の意識の違いも相当大きな要因になっている、ということを実感している。
私は現在、福井県立大学永平寺キャンパスに勤務している。立地的には長崎県立大学シーボルト校と似ている。永平寺キャンパスは福井市の隣の永平寺町(旧松岡町)にあり、福井駅からバスで30分程度、いっぽうシーボルト校は長崎市の隣の長与町にあり、長崎駅からバスで30分程度。同じ位の距離である。
私は福井駅の近くに住んでいて、毎日福井駅から松岡駅まで電車、そこからバスに乗り換えて通勤している。長崎でいえば長崎駅から長与駅までJRに乗って、そこからバスという感じだ。これがあり得ないという言い方をされる。何で車じゃないの?不便で大変でしょ?みたいな。
確かにシーボルト校でも教員はほぼ車かもしれない。私も長崎の昔の自宅(麹屋町。中心市街地にある。)からシーボルト校に勤務するとなると、車だったかもしれない。ただ、学生まで車通学が当然、となると、えっ、と感じる。
実際、私が通勤する電車・バスで大学生の姿はほぼ見かけない。シーボルト校の学生って、そもそも自動車通学は認められているんですか?知らないけど、禁止されていてもおかしくない、というのが元長崎市民の感覚だ。
だいたい、免許取り立ての学生がシーボルト校まで車で行きたいと思うのか。あんな道を運転したくないと感じる人が結構いるんじゃないだろうか。これも長崎で公共交通が選択される地形的な要因である。
長崎に住んでいた頃、TOEICの試験会場がシーボルト校だったことがある。受験票には「駐車場はありませんので、公共交通機関をご利用下さい。」と書いてあった。当然のように私はバスで行った。果たして福井県立大学で同じことを言ったら、福井市民に何と言われるだろうか。永平寺キャンパスに大人がバスで行く、なんて想像もつかないし、やれと言われたら、ふざけるな、行かないと言われる気がする。
長崎県庁も長崎市役所も、車通勤は禁止されているはずだ。だから、みんな公共交通機関で通勤している。ごく一部に庁舎近くの駐車場を借りている人がいるっぽい、という話も聞くが、基本は全員公共交通機関である。だからシーボルト校周辺の団地に住んでいる公務員はみんなバス鉄道で通っている。それが当たり前、というのが長崎市民の感覚だ。さて、永平寺町から福井県庁や福井市役所までバス電車で通っている人の割合はどの程度なんでしょうね。
大昔から福井市は車依存社会だったのか。そんなことはない、この30年位の間で商業施設の郊外化が進んで車への依存度が高くなったんじゃないか、と最近思うようになった。それに伴い公共交通に対する市民の意識が、長崎市と福井市で大きく違ってきたのではないだろうか。
福井市の中心商店街は福井駅周辺にあった。そこがいつまで中心だったのか。
少なくとも生活創庫ができた1990年頃は駅前が中心だったようだ。私と同世代の人に聞いた話だと、高校生の頃、福井駅周辺の商店街は賑やかで、そこに行くのは楽しみだったしワクワクした、と言っていた。
そして2000年、郊外の国道沿いにフェアモール福井がオープン。ここに生活創庫を運営するユニーが中核テナントとしてアピタ福井大和田店を開業し、生活創庫は2002年に閉店した。駅前商店街に代わり、今はフェアモール福井周辺が福井市最大の商業集積地になっている。
先日、福井県知事を16年務めた栗田幸雄氏がお亡くなりになった。栗田氏が今の福井の基礎を作ったという報道を沢山目にし、その中には県立大学の開校や県立図書館の開館が挙げられていた。
知事就任後は「生活満足度日本一」の実現を掲げ、県立大の開学やハーモニーホールふくい(県立音楽堂)、県立図書館の開館など大型施設の整備で県民の暮らしを向上させた。県立恐竜博物館も整備し「恐竜王国福井」の礎を築いた。
(中日新聞2024年5月18日)
私は県立大学や県立図書館がなぜ鉄道路線の近くにないのか疑問に思った。県立大学はえちぜん鉄道が、県立図書館はJR越美北線がすぐ近くを通っている。いずれも田んぼの真ん中にあり、鉄道沿線に土地がなかったということもない。この辺の施策が、福井を一気に車社会へと変容させた契機になったのではないかと思う。
前述したフェアモール福井にしても、行政が市街化区域への編入を行っている。市街化調整区域のままであれば、あの場所に商業施設は建てられなかったのだ。車社会への誘導は、行政主導の側面も相当程度あったのではないかと感じている。
但し福井は、地方鉄道に対する施策は全国でもトップレベルにある。JR長崎本線だと長崎と長与の間は日中1時間に1本程度しかないが、えちぜん鉄道も福井鉄道もパターンダイヤで1時間に2本走っている。私もさすがにえちぜん鉄道が1時間に1本しかなければ、鉄道利用はあきらめて車通勤に切り替えたかもしれない。どちらの鉄道会社も、経営危機から地元住民の支援により運営組織を建て直し利用客を伸ばしている。
鉄道側の体制はできているのだから、後は住民の意識が変わることにより、公共交通を活かしたまちづくりをすることは可能だと考える。福井に来て「ふくい路面電車とまちづくりの会」の幹事にさせて頂いたので、微力ながら会の活動を通じて福井のまちづくりに貢献したいと思う近況である。