2021年12月7日火曜日

県内産の高級果物を県内業者は取り扱えない

2021年12月7日付けの長崎新聞に以下の記事が出ていた。

「出島の華」50万円の高値も 「させぼ温州」初競り 東京・大田

「出島の華」はうまくブランド化できたと思うし、それが高値での取引につながっているのは、いいことだと思う。


「出島の華」の評価は海外でも高く、海外の業者からの引きあいも強い。私も商談の際に名指しで商品指名されることが多々あった。

ところが長崎県で青果物の輸出業者を経営している私の立場では困ったことに、県内業者だとこうした高級果物を扱えないのだ。農協が長崎市中央卸売市場には出荷せずに県外の卸売市場中心に出荷するからである。

農協としては高級な商品は高く売りたいと考えるのが当然のことである。長崎の市場に出荷しても高値がつかない。だから東京の市場を目指して営業活動をする。このことに関して批判するつもりは全くない。


海外での営業活動を数年行っていると、長崎県産の農産物で売れるものは結構あるということがわかる。みかんもそうだし、県産いちご「ゆめのか」もかなりの人気である。このあたりは名指しで現地の輸入業者に指定される。他には香港では日本産びわがかなり売られていて、私は長崎県産しか見たことがないし、野菜でもミニトマトは長崎県産の割合が高い。

香港で長崎県産びわをPRしよう

ところがこうした商品を売ろうと思っても、長崎の卸売市場に基盤を置く業者だと東京や福岡の業者に勝てないのである。「出島の華」は入荷しないし、いちごも農協が我々に提示する価格が東京よりも高いのではないかと思える感じで、商談が成立しないのだ。

青果物の価格というのはきわめて市場原理に従って成立している。量が多ければ安くなり、少ないと高くなる。高値で買う人が多いと値段が上がり、少ないと下がる。

みかんにしろいちごにしろ、長崎より東京の方が高値で買う人は遥かに多い。農協としては東京で売ることを目指すのは当然のことである。いくら運賃が高くてもたくさん売れれば元はとれるし、売り上げ総額は高くなる。いちごの場合は東京で大量に売った方が儲かるから、量を売って市場を確保したい。購入実績がなく将来的の売り上げも不透明な長崎の業者に売るのなら、高目の値段を提示することも何ら不思議なことではない。


では長崎の業者が輸出において東京の業者に勝ち目はないのか。私はあると思っていた。

長崎から東京まで運ぶのには運賃が高くつく。それでは東京市場において他産地との競争に勝てない。長崎から出荷する場合最低10トントラック1台くらいの量がないと、東京での競争力がない。だから量が見込める商品でないと東京には出荷できない。

これが輸出になると、パレット1枚分、200kg程度の量があれば十分競争力を持てる。もともとアジア市場であれば東京からより福岡からの方が距離が近く、航空貨物運賃も安くなる。また長崎から福岡までの輸送であれば輸送頻度が高いので、パレット1枚分程度であれば他の荷物と積み合わせることで安く運べる。

だから少量の高級品に焦点をあてれば、東京で売るには物量が足りないものを海外で高く売ることは可能だと考えた。

こうして物量を増やしていくことで、県内業者による海外へ輸出ルートを太くしていって、結果として長崎県内の卸売市場の活性化にもつながると考えていた。


このような戦略の調整は、一輸出企業の努力ではどうしようもない。行政が各関連機関との調整の役割を担うべきことなのだ。

ところが長崎県の担当機関にはこういう姿勢が全く見られない。「全く」というのは語弊があって、最初は私と同じ考えのもとに動く担当者もいたがそれが続かないのである。役所の担当者は異動ですぐいなくなるからだ。

私が県と一緒になって一番活動していた時に、担当の係長は1年、課長補佐は2年で異動になった。担当が変わればゼロに戻る。気の利かない人が新たな担当で来れば、マイナスからの再始動になる。

そして担当者はこの短い期間で成果を出すことを期待される。するとどうなるか。短期間で実績が出る方向へ施策を変えてしまうのだ。

長崎県の事例をあげれば、県外の輸出業者に補助金を出すようになってしまったのだ。輸出実績のある業者に補助金を使えば、確実に輸出量は増える。最も簡単な補助金の使い方だ。

ところが補助金をつけて輸出量が増えた分は、補助金がなくなると元に戻る。県外業者にとって、どこの県産品を扱おうが関係ない。その時に有利な商品を扱うだけだ。補助金がなくても競争力がある商品は、そもそも元々扱われていたし、補助金がなくなっても扱われる。こういう補助金は結果として県外業者を潤わせるだけで、逆に県内業者の息の根を止めてしまう。実際に私は県外業者に補助金を出す施策が導入されてから、やる気を失い輸出の営業活動をやめてしまった。


正直に言って、長期的に継続させないと成果が出ない政策は現状の行政のしくみにはそぐわない。資本力のある企業が継続してやらないと結果に結びつかないのだ。

私が輸出の実務をやっていた感じだと、2〜3年続けていればやっと海外の取引先とも話ができるようになる。そこから実績を積んで5年くらいで芽が出てくればいい方じゃないかと感じた。1〜2年で担当が変わる役所ができる仕事ではない。そもそも農産物は大きな商談のチャンスは1年に1回しかない。いちごであれみかんであれ、シーズン始めに商談が成立しないと、次のチャンスは翌年になってしまうのだ。

こういう部分こそ地方銀行がサポートできないのかと思うが、親和銀行も十八銀行も私に声をかけてきたが、なんの成果も出すことはなく、1年も経たないうちに何も言わなくなった。まだ肥後銀行の担当者の方が前向きに考えて頂けたが、やはり(熊本から見て)県外企業のサポートをすることは難しいという結論になった。


十八親和銀行が福岡銀行傘下になった今こそ、福岡フィナンシャルグループ(FFG)が主体になって長崎県からの農産物輸出に取り組めば、少しは何とかなるとも思えるが、現状の農産物輸出は福岡の輸出業者が主体になっているので、FFGとしては本気で取り組まないだろう。実際に私が親和銀行の担当者と一緒に取り組もうと動いていた時にも、福岡銀行側は「親和のことには関わらない」という雰囲気だった。