2020年1月25日土曜日

対馬への外国人観光客誘致は、福岡と釜山を結ぶ導線上で考えよう

経済地理学会対馬特別例会での話の内容は書かない、と書いたけど、ちょっとだけ書く。

1月24日付けの新聞に、以下の記事が出ている。

「福岡-釜山」高速船 「日韓以外」利用客3倍を目標に

(毎日新聞へのリンク)

まあ、ね、タイミングが悪かったよね。JR九州が巨大な高速船を博多釜山航路に2020年7月から投入する、という計画があって、今の日韓情勢を考えると、客が乗るはずがないという状況だ。

申し訳ないが、日韓情勢に関係なくこの計画は最初から難しいと私は思っていた。博多−釜山航路を利用する客は、安く海外旅行ができるからという理由が大きく、豪華な船でのクルーズを楽しむという需要は、ほぼ無いからだ。

それでも就航が決まった以上は、搭乗率を上げるためには日韓以外の観光客を乗せないといけない、という事情だ。
同社は長期滞在する傾向がある欧米豪の訪日客に注目。九州と釜山を同じ観光圏と位置づけ、旅行中の周遊先として釜山をアピールして高速船の利用を促す。
欧米豪の観光客に着目するのはいい。しかし、わざわざ博多から釜山を往復するだろうか。それは難しいと思う。


私が対馬の例会で提案したのは、特に欧州客を福岡in、釜山outなどの行程のなかで、対馬を組み込んでもらおうということだ。

対馬には森があり城跡があり神社仏閣も多いと、西洋人に好まれる要素がふんだんにある。熊野古道のような売り方ができれば、西洋人の観光客を集めることも十分可能だが、国土の端にあるという捉え方ではアクセスが悪く観光客誘致では不利である。

そこで、2020年夏ダイヤから就航が決まったフィンエアのヘルシンキ−釜山便を利用して、片道は福岡便、片道は釜山便という使い方を売り込めば、対馬の地理的不利性が解消される。さらにヨーロッパから釜山へのインバウンド客は少ないだろうから、そこは福岡・対馬と釜山が協力することでインバウンド増加を図るようにすればいいのだ。

韓国は仁川のハブ機能を強化する国の航空政策により、長距離便は仁川のみに就航させてきた。釜山にとってその政策を越える待望のヨーロッパ便になる。この路線を維持するためにもインバウンド増加は必須条件なのだ。福岡へのフィンエアー便にしても、インバウンドが弱い関係から夏季のみの就航に留まっているので、釜山と協力してインバウンド増加を目指すのは、お互いにとって悪い話ではない。

JR九州も、福岡から釜山を往復することを売り込むのではなく、片道利用を推進する方向で行く方が現実的である。


ところでアジアからのLCC路線は、九州の就航地として最初に福岡、次に鹿児島を選ぶ傾向がある。この事実を聞いて「鹿児島って人気があるのか」と思うだろうか。申し訳ないが、観光地としての人気は鹿児島より長崎の方が高い。それでも長崎ではなく鹿児島を選ぶのは、片道福岡、片道鹿児島の利用で、九州を縦断する観光客が見込めるからだ。

九州内の移動手段としてJR九州とバス会社は、いずれも九州乗り放題チケットを販売している。こういうチケットを利用し九州を縦断したいと考える海外客が多くなるのは、容易に理解できる。

香港と台湾は、日本へのリピーターが多いことで有名だ。LCCを使って年に何回も日本を訪れる人が多い。そして、香港と台湾からのLCCは、福岡と釜山の両方に就航しているのだ。

そうなると、福岡と釜山を航路で結んでいるJR九州が、福岡釜山移動に加え対馬周遊が可能な割引チケットを機内で売ったりすれば、アジアから対馬への旅行客は一気に増えるだろう。


ながさき地域政策研究所が作成した「対馬観光再生ビジョン提言書」には、福岡空港を経由してアジア諸国からの観光客を呼び込むと書かれているそうだ。しかし、福岡からわざわざ対馬を往復しようというアジアの観光客がどれだけいるのだろうか。それよりは福岡と釜山を移動する途中で対馬を訪れてもらうほうが、可能性は遥かに高い。

行政が関わると、国をまたいだ施策を取るは難しい。しかしこのケースならばJR九州が1社で対応できる話だ。現在LCCの香港エクスプレス機内でJR九州乗り放題チケットを販売していて、かなり売れている。こういう取り組みを博多−比田勝−釜山航路でも行えばいいのだ。

2020年1月24日金曜日

「対馬学フォーラム」の成果について考える

2019年12月8日に「対馬学フォーラム2019」が開催された。
対馬に関するさまざまな分野の研究発表会であるが、この内容が素晴らしすぎて、本当にびっくりしている。

何が素晴らしいかというと、大学の研究者だけでなく、地元の小中高生も発表していることである。発表しているということは、当然事前に研究をしている。

郷土についての研究を小さい頃から行うということは、郷土愛を育む上でこのうえない効果を生む。私のように大学で研究者になるための教育を受けてきた人間からすると、小さいうちから研究活動を行うことは、本当に素晴らしいことだと感じる。

但し、手放しで喜べない部分もある。下手に研究に興味を持ってしまうと、長崎県の現状であれば県外に優秀な人材を放出する結果につながってしまうからだ。

教育と就職・就業は、本来密接に関わるべきものだ。しかし長崎県では大きく分離している。高校では「いい大学」に入れることだけを考えていて、その後その人材をどう長崎に戻すのか、という視点が完全に欠落しているのだ。


研究に興味を持った高校生が出てくるのであれば、民間で研究をできる環境が乏しい以上、県が研究に携われる職場を用意しないといけない。現状県内にほとんどそういう職場がないから、学歴が高くなるほど、県内で職を見つけるのは困難になる。私も今でも相当苦労しているし、高学歴者を大事に扱わない長崎県の実状をここまで見せつけられると、早く県外に脱出したいと思っているのが現実だ。そもそも高学歴者を大事に扱え、と言うのがふざけていると言われるし、学歴が高ければ高い程、頭を下げないと生きていけないのが長崎の社会だ。だから頭を下げるのが嫌いな私は長崎では生きていけない。

ところで対馬で研究に興味を持った場合の就職先としては、市の学芸員しかない。果たして対馬市に学芸員のポストはいくつあるのか?

それ以外には、本来であれば高校の先生が最適である。

ところが長崎県の高校は、補習や部活に忙しすぎて、先生が独自に研究活動を行うのは困難である。そもそも先生に研究活動をさせようという空気が、多分今の長崎県教育委員会の中には無いはずだ。

私も高校の先生になろうかと考えたことがあるが、あまりに長崎県の高校はブラックすぎるから、採用試験を受ける気にもならなかった。朝から夜まで働かされて、夏休みも1週間位しかない。東京都立高校の先生の労働時間を見ると、冗談じゃないが長崎県の教員になろうという気にはならないし、ここを読んだ長崎県の教育関係者は、「そういう自分のことばっかり言うような人は、長崎県の教員になって欲しくない」と考えるはずだ。

また多すぎる強制補習授業の悪影響は、研究をしたい高校生の活動にも悪影響を与える。長崎県の教育を受けてきた私からすると、よくまあ学校で朝から晩まで補習だ部活だと拘束された上で、「対馬学フォーラム」の発表のための研究活動をできる高校生がいるもんだなぁと、感心せざるを得ない。

そもそも何のために補習授業をするのか。大学受験のためではなく、完全に先生が生徒を管理するための手段にしかなっていない。

今どき学科試験だけで大学入試を通過しているのは、入学者の半分しかいない。あとは推薦入試・AO入試などで入る。どう考えても補習授業を受けてペーパーテスト対策の勉強をするより地域に関する研究をした方が、入試には有利になるのが今の時代なのだ。

そうであれば、ペーパーテスト中心の受験を目指す人だけが補習授業を受ければいいのだが、個性を認めない長崎県の教育界でそれは許されない。全員同じことをしないといけないのだ。もちろん、同じことをさせた方が先生が管理しやすい、というのが根底にある。推薦で大学入学が決まった人まで「和を乱さないため」に補習授業を受けさせられるような状況なのである。

高校の先生として研究ができる人を採用しようという気すら、長崎県側にない。オリンピック代表になれば教員採用試験の一次試験免除になるという制度はあっても、博士の学位を持っていれば一次試験免除という制度はない。学術よりスポーツのほうが優先されるのが長崎県の教育界なのだ。私も一次試験免除になるのであれば、間違いなく長崎県の採用試験を受けていた。実際に先生になるかどうかは別にしても。


仮に研究できる人間を高校教諭として採用したとしても、異動があるから対馬にずっと居られないということは、今の制度では避けられない。しかし、これも制度を変えれば済むことだ。異動を少なくするのは私も反対だが、中学と高校を両方異動するように制度を変えれば、対馬で長期間勤務することが可能になる。今でも採用試験の段階で中学と高校を一括採用している都府県は存在するので、長崎県でもできないことはない。


「対馬学フォーラム」の開催などで対馬市がどれだけ頑張っても、教育職の人事は県なので、どうしようもない。だからこそ、県と市町が一体になって、就業対策を立てないといけないのだ。