2019年2月10日日曜日

長崎港・空港からの農産物輸出が増えないのは業者のせい?

西日本新聞に気になる記事が出ていた。

長崎の貿易現状は「鎖国」 日銀支店リポートで指摘 空港と港湾 機能に課題 [長崎県]


長崎港や長崎空港からの農産物輸出が他県に比べて少ない、という話。

リポートは「空港の24時間化を含め、需要地のニーズに合わせた物流体系の確立が急務」と総括。貿易の玄関口として(1)港湾や空港のインフラ整備(2)生産地から港湾や空港までのアクセスの整備(3)需要地に向けた航路、航空路の拡充-などの遅れている対応を列挙した。平家達史支店長は「これまでは長崎の中で商売していれば何とかなったので、販路の開拓を他地域よりしてこなかったのではないか」と辛口に評価する。関係者はどう受け止めるか。

関係者として言わせてもらうと、「何を偉そうなことを言ってるの?」という感じで、こんな訳のわからないことを言っている人が発言力を持っている時点で、長崎の経済は終わっている、という印象である。


私は水産物流通についてはわからないので、農産物についてだけ書く。

まず販路開拓。「長崎の中で商売していれば何とかなったので」云々のくだり。何を言ってるのですか、という感じ。今、東京のデパートやスーパーに行けば、長崎県産のみかんやいちごは普通に売っている。私の印象だと、長崎県は他県と比べても、東京での営業は相当頑張っている。長崎は東京から遠いため運賃がかかるから、東京で売るのは相当不利な地理的条件にある。それでもこれだけ東京の店に商品が並んでいるのだから、「販路の開拓を他地域よりしてこなかったのではないか」と言われても、「何を見てるんですか」という感じになる。もっとも、この人の他の発言を見ても、「何も見ていない」という印象しか私は持っていないのだが。


次に輸出に関していえば、「なぜ農産物の輸出をしなければならないのか?」という根本的な問題がある。輸出は基本的に儲からないからである。

私の印象としては、果物が世界一高い値段で売れるのは東京である。となると、生産者は東京で売った方が一番儲かる。一番儲かることを目指すのが、経済原理としては正しい。

では将来的にどうなるのか、という視点から考えても、やっぱり将来的にも値段という点では、香港やシンガポールなどのほうが東京より高い値段で売れる、ということは、まあ無いだろうというのが、実際に商売をやっている私の感覚である。もちろん小売価格の話ではなく、農家が受け取れる価格の問題だ。

それでも実際に輸出をしようと頑張った所で、福岡や関東関西の業者に勝つのは、相当厳しいというのが現実である。大消費地の業者は長崎の業者に比べて品揃えが豊かで、それだけでも海外の業者との取引で優位に立てる。そして輸出ルートをすでに作っているので、そこに長崎から新興業者がルートを作って営業をする、というのは、余程のことがないと成功しない。是非日銀長崎支店の平家達史支店長に、実際に営業をしてもらいたいと思う。

長崎港や長崎空港からの海外への貨物便が少ない、という点については、実はそんなに営業上の障害になっている訳ではない。福岡から香港やシンガポールへの農産物輸出でも、船なら週1回、飛行機でも週1回や2回という業者が普通である。福岡港からでも釜山港経由で輸出されるケースも普通で、長崎港の便数が少ないことがデメリットになるという印象は、今のところ感じていない。

最大の問題は、その週1回分のコンテナを満載にするだけの商品を運ぶ営業力がない、ということである。そんなに簡単に営業ができる程、商売は甘くない。


では何が現状問題なのかと言えば、あくまで私の印象だが、県の姿勢である。少なくとも農産物輸出の部署からは、長崎港や長崎空港から農産物輸出を増やそうという姿勢が、全く感じられない。

私も以前から、特に香港は水産物の輸出が多いから、貨物輸送も見込めるということで香港の航空会社の誘致をすればいいんじゃないですか、と県の農産物輸出担当者に話をしていたが、多分、それが空港担当の部門には全く伝わっていない。

また、今回香港エクスプレスの就航に合わせて、福岡から香港エクスプレスの貨物輸送を行っているフォワーダーさんから、長崎でも貨物を扱うように香港エクスプレスに頼んでみてもいいですよ、という話をされたが、残念ながら売る相手がいないので、販路が開拓できるまで待って下さい、という返事しかできなかった。


基本的に貿易は民間がやることなので、何でも行政にお願いするというのは間違っていると思う。しかし、こういう業者間の調整をするのが行政の仕事ではないだろうか。

実際に長崎県の農産物輸出担当部門がやっているのは、福岡や関西の輸出業者に補助金を入れて、福岡や関西からの輸出を増やす施策なのである。長崎の地元業者と手を組んで、長崎港や長崎空港からの輸出を増やそう、ということは、全くやっていない。

日銀長崎支店の平家達史支店長も、業者の努力が足りないという前に、県の姿勢はどうなんですか、と言う方が先じゃないだろうか。

また行政側も、こういう数字を見て推測しているだけで現実のわかっていない人の話をありがたがって聞いているから、長崎の経済が発展しない、と、常々思っている。