2011年9月27日火曜日

食農資源経済学会長崎大会に参加して(2)

2日目の議論から。

2日目の共通テーマは、『国際環境変化の下での地域農政のあり方』だった。
はっきり書いてはいないけど、明らかにTPP対策のテーマだろう。

報告は4人。そのテーマだけ書くと、
「国際環境変化の下での農業経営戦略と地域農政」
「次期EU共通農業政策(CAP)の方向性」
「韓・米FTAの締結と韓国農業の対応」
「ながさき農林業・農山村活性化計画について」

4人目だけは長崎県の話だが、全体を通して、TPP対応の議論であることは間違いない。
こうした国際的な対策を考える機会を長崎で作って頂いたことに対して、学会の方々には感謝する。

そもそも、TPPの賛成や反対は別にして、導入したらどうなるかという議論をするのは、本来重要なことのはずである。しかし、特にマスコミでは、賛成ありき、反対ありきの、結果ありきから導き出された理由ばかりが語られる。

もちろん、研究者レベルや(多分)高級官僚の方々は、TPPの影響に関する議論は、沢山やっている。しかし、長崎のような日本の端に住んでいると、こうした議論に接する機会は、ほとんど無い。

私も、東京大学という組織内部にいた後、長崎に戻ってきて、長崎で一般人をやってみると、いかに中央の情報が入ってこなくなるかということを痛感した。


前置きはさておき、私が今回の報告で特に注目したことを書きたい。

まずはEUの農業政策についてである。

国際的な議論がどう進んでいるかがわからないと、何故TPPの議論とEUの農政が関係してくるのかは理解しずらいだろう。EUの農政が重要なのは、ウルグアイラウンドの合意に遡る。

ものすごく大雑把な話をするが、ウルグアイラウンド当時の世界の貿易は、日本・アメリカ・EUが中心となっていた。そして、この3者が国際貿易のルールを作る主役であった。

こと農業に関していえば、アメリカと日本・EUの政策が対決することになる。というより、日本にとって、アメリカの農業よりEUの農業の方が親和性が高い。となると、日本がEUと組んで、農村保護的なルールを作って主導権を取れれば、アメリカを押しきれる、ということだ。

ウルグアイラウンドの時代は、日本国内の雰囲気からすると、自分たちが国際ルールを作る主体になる、という気持ちは希薄であった。国際ルールというのは、どこかで定められたものを日本が受け入れる、という感覚だった。

そして、ウルグアイラウンド締結後、実際に動いてみると、アメリカやEUが「国際ルール」として公平そうなきまりを作っていても、中身は自国に有利なものを巧みに折り込んでいるということがわかった。日本だけが損をした、と言っても過言ではないような状況だった。

これで日本は学習した。以後国際ルールができる時は、きちんと自国に有利な条件を、相手を納得させながら折り込むことが必要だ、ということを。そして、「ルール作りに参加することが重要だ」ということを。ここが重要。そもそも、日本はルール作りに参加する、という意識が希薄だったのだ。再度書くが、国際ルールというものは、自ら作るものではなく、できたものを受け入れる、という感覚だった。


ウルグアイラウンドの合意後、日本の農業経済学研究者は、EUの農業政策を学ぶことに勢力を注いだ。先に書いた通り、EUの政策は日本の農業政策と親和性が高い。そして、EUの政策をベースにすれば、以後の国際交渉でも、日本に有利なルールを作ることができるからだ。

こうして生まれた政策が、中山間地域等直接支払制度であり、農家への個別所得補償である。


東京にいた頃には熱心に勉強していたEUの農政であるが、長崎に来てからはとんとご無沙汰していた。それが今回話を聞く機会ができて、非常に嬉しかった。

そして、今回の講演によると、EUの共通農業政策は、確実に進歩している。当然といえば当然だが、時代の変化に応じて、適切な政策を作るのは、ごく当たり前のことである。

翻って日本の農政はどうだろうか。上に中山間地域等直接支払制度のことを書いたが、そうした変化はごく一部。基本的には、ウルグアイラウンド締結当時から、何も変わっていない。6兆円以上も投じられたウルグアイラウンド対策費が、日本農業にほとんど変化を与えなかったのは、周知の通りである。やはり、日本は何も学習していないと言わざるを得ない。

TPP反対を叫ぶのも結構である。しかし、そうした外的変化に関係なく、日本の農業を取り巻く環境は変わっている。その変化に対応した農業政策を考えることもなく、単に現状維持を叫ぶことに、何の価値があるのだろうか。TPP云々に関係なく、現状に則した農政なり農業補助の方向を、もっと積極的に打ち出す必要があるのではないだろうか。


最後に重要なことだから、もう一度書く。

国際的なルール作りには、ルールを作る段階から参加しないと不利になる。日本ほどの大国なのであるから、国際ルールはできたものを受け入れるのではなく、ルールを作る段階から参加してしかるべきなのである。TPPに関してもそう。できてもいないルールを受け入れるかどうかで、賛成反対なんて言うのはナンセンス。まずルール作りに参加しないと始まらない。そこで自国にとって不利なルールしかできなそうなら、その時点で降りればいいことである。そこをしっかり理解しなければならない。